日曜の夜9時から、TBS系列のドラマ『とんび』を見て“うるうる”しています。原作は重松清、昨年の1月にNHKでドラマ化され話題になった作品です。重松は1963年岡山県生まれ、早稲田大学教育学部を卒業。出版社勤務を経て、フリーライターとして活躍し、1991年に作家デビューしています。作品には昭和40〜50年代の昔を懐かしく思い出させ、どこかやるせなく、そして泣けてくるものが多く、その落としどころの感性に同年代として嫉妬するほどの才能を感じています。この独自の感性は、彼が吃音(どもり)で、親の都合で転校を繰り返した幼少期の境遇から生まれたのでは…とも言われています。
作品の泣きどころについて、面白いことに重松は脳科学者の茂木健一郎との対談集『涙の理由』の中で、泣きの情景は第三者の目で描写した方が効果があるとしながら、でも決して自分は“泣ける”ための作品を目指しているのではないと話しています。そして、最近の「泣ける映画」「泣ける小説」のブームに見られるように安易に泣けることに期待し、泣けることが感動の全てであるかのような風潮は逆に危険であるとしています。対談の最後に、1987年の日本シリーズの対巨人戦、勝てば優勝という試合で当時西武の清原が、9回裏ツーアウト、勝利を目の前にして一塁上で流した涙を例にあげて、“良い涙”とはその人の経験とか過去に裏打ちされた、一生に一回の自分だけが流す涙のことであるかもしれない…と締めくくっています。
重松の作品との出会いは、当時高校生の長男が父の日にくれた『ビタミンF』が最初です。“F”はファミリーの頭文字です。家族の絆を題材にした、家族のためのビタミン剤という本です。今では自分のかけがえのない1冊となっています。