先週の土曜日の夜11時より、NHK福岡放送局が制作したドキュメント『財津和夫“夕陽を追いかけて” 〜チューリップと歩んだ40年〜 』が放送されました。番組は、昨年デビュー40周年を迎え記念ツアーを行ったチューリップのリーダー財津和夫の半生を追うものです。
高校時代のビートルズとの出会い、その憧れから音楽活動に目覚めた大学時代、そしてチューリップの結成… と、大学時代の友人との再会を交えながら昔の記憶を辿るように番組は進んでいきます。
「成功するまでは、故郷博多には絶対に帰るまい…」「これだけ良いものを作ったのだから売れないはずはない…」と決意と確信を持って臨んだ上京と念願のレコードデビュー… そして、3枚目のシングル『心の旅』の大ヒット…
しかし、自分の思惑とは全く異なる方向へ動きを見せる周りの状況や芸能界というものに、財津は疑問を持つようになります。「このままでは世間に埋もれて見捨てられてしまう…」
それから財津は、新しい楽曲の創作と、ファンとの接点であるライブの完成度に重きを置くようになっていきます。しかしながら、番組の中での財津の言葉「今まで音楽をやっていて楽しいと思ったことは一度もない…」が表しているように、いつも何かしらの重圧と責務を背負った状況は、周りとの軋轢を生むようになり、メンバーの脱退、交替、そしてついには… 解散を迎えることとなります。
結局一人になり、ソロとして音楽活動を続けていくことになるのですが、その創作意欲は老いることなく、50歳を過ぎて大阪芸術大学の教授という職に就きながらも、そのエネルギーを若い学生から見出そうとしていたようです。
そのように人生をまだ一人歩きしている50歳半ば…
財津は突然の病に見舞われることとなります。「朝起きて何をしていいのか分からない…」「何の意欲も湧かない…」つけられた病名は『更年期障害』 。
この更年期障害、女性の場合は閉経という大きな変化と症状が結びつきやすく医学的にも認知されやすいのですが、男性の場合はそのようなものも無く、非常に個人差があるのでその存在さえも認知されていません。主な症状は、疲労、うつ、不眠、性欲減退… 原因は加齢およびストレスによる男性ホルモン(テストステロン)の減少です。
しかしながら、この病はそれからの財津にとって貴重な体験となります。好きな音楽を好きなだけ聴き… 自分の自由な時間を自由に使い… これまでとは異なるところに身を置くことによって、病状は徐々に回復していきます。「たまには周りの人の愛とか親切心とかに救われてみろ… と神様に告げられたような気がしましたね〜」と後に話しているように、それからの財津は以前のように自分一人で切り開いていく人生ではなく、周りの力に支えられながら、自分の目の前に自然と開けた自分に合った道を歩めるようになっていったようです。
五木寛之と精神科医の香山リカの対談集『鬱(うつ)の力』(幻冬舎新書)から…
五木:「鬱蒼(うっそう)たる樹林」とか「鬱然(うつぜん)たる大家」というときの鬱(うつ)は、全部肯定的な表現です。だから僕は、無気力な人は鬱にはならないと言ってるんだ(笑)。エネルギーと生命力がありながら、出口を塞がれていることで中が発酵するものが鬱なんですよ。
財津和夫は現在65歳、今年の秋からはソロのコンサートツアーも再び始まるようです。このエネルギーを見習いたい… というか欲しい!と思う今日この頃です。